紙の上で宇宙旅行
第1部が丸々ヒトザルの進化に費やされ、第2部になったらやっと宇宙が出てきたものの、仕事で外国に行くような気楽さで地球から月に行く博士にページの多くが割かれて、「どうにもイメージと違うなあ」という感じでしたが、3部以降は木星探査に行くクルーや人工知能が登場して、やっと「これこれ! こういうのが読みたかったんだよ!」と思えました。
いやー、ここに辿り着くまで長かったです。
正直第1部、第2部をもうちょっとさらっと書いても良かったんじゃないかと思いますが、作者さんが何を意図してあれだけの分量を書いたのかは理解できるので、書き過ぎとも言い切れない気がしますね。
今まで読んだSFって、あまり宇宙の描写が細かいものがなかったのですが、この作品は星の描写などが細かくて、「宇宙ってやっぱり凄いなあ、綺麗だなあ」と感動しました。
タイトルそのまま、宇宙を旅するというシンプルなストーリーの為せる技でしょうか。
昨今のSFは宇宙の凄さとか美しさを描くことより、人間の内面だとか人間同士のいざこざだとか、そういったものを描く方にシフトしている気がしますね。
それはそれでいいのですが、宇宙の壮大さだとか綺麗さだとかももっと書いてくれると嬉しいなあと、個人的には思います。
やっぱり宇宙ってロマンですし。
淡々とした調子で物語が進むので、矛盾した命令のせいで狂った人工知能がクルー達を殺しにかかってきても別に怖くなかったのですが(船に兵器が搭載されている訳ではないため、直接的な攻撃はほとんどできず、ハッチを解放したりする程度でしたし)、物語終盤で唯一生き残ったクルーが人智を超えたテクノロジーで為す術もなく未知の空間へ運ばれて行く方がよっぽど怖かったです。
『ひぐらしのなく頃に』を読んだ時にも思いましたが、仕掛けてきた存在が何のためにそんなことをしているのか皆目わからないというのは、恐怖を感じざるを得ませんね。
結局その人は人間ではない別の存在として生まれ変わることになるのですが、肉体を失って意識のみの存在になるという展開にときめきを覚えました(笑)。
人間とは異なる存在の視座から世界を見るっていいですよねー。
マッドな人体実験までして人類の進化系に至りたいとは思いませんが、その手のマッドサイエンティストの気持ちもわかるなあと思っている私にとって、物語の終盤が一番面白かったです。
終わり方はちょっとすっきりしない感じで、若干消化不良でしたが、SF好きの方なら一読の価値はあるのではないでしょうか。
ちなみに『2001年宇宙の旅』と言えば同名の映画が有名ですが、小説は映画の公開の後に出版されている上に、作者さん独自の解釈がかなり入っていたりするそうなので、映画を観た方でも楽しめると思いますよ。
まあ、私は小説しか読んでいないのですが(笑)。
PR