『岩窟王』
原作は19世紀が舞台なのに、『岩窟王』は世界観がSFで目が点になりましたが、Wikipediaさんによると元々監督さんはアルフレッド・ベスター氏の『虎よ、虎よ!』というSF小説をアニメ化したかったのに著作権の関係で断念せざるを得ず、代わりにモチーフになった『モンテ・クリスト伯』をアニメ化したという経緯から、世界観がSFになっているようです。
正直SFに拘らなければならないようなストーリーではなかったものの、監獄に送られた人が制御系に組み込まれて、死ぬことすら許されずに在り続けなければならないという設定はSFならではの苦しみで良かったと思いますね。
原作は無実にも関わらず親友達に陥れられ、監獄へと送られたエドモン・ダンテスという男性が長い年月の後に監獄を脱出し、モンテ・クリスト伯と名乗ってかつての親友達に復讐を遂げていくという復讐譚なのですが、アニメは原作と違って復讐される側の親友の息子・アルベール君を主人公としてストーリーが展開していて、概要を読む限り原作より深みのあるストーリーになっていた気がしました。
原作は復讐する権利のあるモンテ・クリスト伯がひたすら憎い相手を破滅させていく勧善懲悪的な感じですが、アニメは復讐される側のアルベール君が恨みや憎しみを飲み込んでモンテ・クリスト伯を許そうとするストーリーになっていたので。
アルベール君は良くも悪くも世間知らずのお坊ちゃんで、人を疑ったり憎んだりということを知らない感じの子なのですが、そういった美しい心の多くを捨て去り、自分にない非情さとか危うさを持っているモンテ・クリスト伯に惹かれていたようで、思わず「BLですか?」と思ってしまうくらい伯爵に懐いていた一方、多分伯爵も自分が失った物を持っているアルベール君に惹かれていたんじゃないかなあと思いますね。
伯爵は「アルベール君に近付いたのはあくまで復讐のためで、今までのことは全部信頼を得るためにやっていたことだ」というようなことを言っていましたが、アルベール君が全てを知ることになる直前、別れの時にとても悲しそうな顔をしていましたし、家令の皆さんにとても慕われている人でしたから、人としての優しさを完全に捨て去ってしまった訳ではないようでしたね。
結局人の心を完全に捨て去ることができなかったからこそ最後に死んでしまったようなのですが、できれば生きて幸せになって欲しかったです。
あんなに誠実な人が人に裏切られて、恨みや憎しみを忘れられない日々を送った挙句、死んでしまうなんてあまりにも悲し過ぎるので。
でも死ぬ間際には「私を覚えていて欲しい」と穏やかにアルベール君に言っていましたから、全てを知った上で自分を許し、自分を止めようとしてくれたアルベール君に救われたのでしょうけどね。
伯爵以外にもアルベール君の親友のフランツ君という男の子が、全てを知って伯爵に決闘を申し込んだアルベール君に代わって決闘に赴き、命を落としてしまうのですが、親友思いのとてもいい子だったので、凄く悲しかったです。
Wikipediaさんにはアルベール君に対して恋愛感情を抱いているようなことが書かれていてびっくりしたのですが、作中だとはっきり同性愛と判断できるシーンはなかったように思うので、信憑性があるのかどうか、ちょっと謎な感じですね。
フランツ君はアルベール君と違って世の中を知っていると言うか、大人びた感じの子だったのですが、死ぬ前にアルベール君に宛てた手紙に「誰も恨むな。人を恨む気持ちも愛する気持ちも全ては同じ、誰かを想う心から生まれたものなのだから」というような言葉を残していて、あまりの達観ぶりにびっくりしました。
あれで十代(作中ではっきり明言されなかった気がするので、恐らくですが)って本当に凄いです。
フランツ君が「誰も恨むな」という言葉を残してくれたからこそ、裏切られた上にフランツ君を殺されてより強く伯爵を憎むようになっていたアルベール君が伯爵を許すことができて、あのエンディングに辿り着くことができたので、彼の果たした役割は極めて大きいですね。
彼が死んでしまったからこそ活きてくる言葉ですが、死んでしまったのが本当に残念でなりません。
親友と憧れの人を失って、アルベール君はとても辛かったと思いますが、二人が自分の命を使って教えてくれたことを忘れずに、これから生きて行って欲しいと強く思います。
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