『そのケータイはXX(エクスクロス)で』
『そのケータイはXXで』は上甲宣之さんの小説です。
第1回『このミステリーがすごい!』大賞で最終選考に残った作品ということですが、ミステリーはミステリーでもかなりサスペンス寄りでしたね。
主人公の女子大生さんが、旅行でたまたま立ち寄った村で生贄にされそうになり、たまたま手に入れた携帯電話を頼りに脱出を試みるというストーリーなので。
電話がなかなか通じないことですれ違いが生じたり、得られたわずかな情報から様々な推測をしている内に、誰を信じればいいのかわからなくなったりと、なかなか面白かったですが、個人的にはやたら説明的な台詞回しが気になりました。
と言ってもそれ程多い訳ではなく、せいぜい2ヵ所くらいでしたが、トイレに立てこもってる人に向かって「今前から回り込んでそっちに行ってやる!」というようなことを馬鹿丁寧に説明するのはどうかと……。
しかも走ってる車にしがみついて運転者を襲うという、ハリウッドアクション映画ばりのアクションをこなす女性が「髪の毛を車のドアの取っ手に結び付けて落ちずに済んだのよ!」というような台詞を言い放つところは、最早ツッコミどころがあり過ぎてどこからツッコむべきか迷うレベルです(笑)。
2つ目の台詞は、これだけ見るとそんなに説明的でもない感じですが、実際にはもっと詳しくドアの作りなどについて説明していたと思います(本が手元にないので、記憶違いがあるかも知れませんが)。
主人公とその友人、2人の女性キャラクターの視点で進む物語なので、キャラクターが見えていないところでは他のキャラクターがどう動いているかわからないことから説明的台詞を入れたのだと思いますが、結構面白かっただけにこの違和感のある台詞回しが非常に残念でした。
妙に説明的口調で喋る辺り、「何だか『ジョジョの奇妙な冒険』みたいだなあ」と思っていたのですが、Wikipediaさんによると第2章の公衆トイレでの格闘シーンは「『ジョジョの奇妙な冒険』の第四部「ダイヤモンドは砕けない」を意識して執筆された」そうなので、その影響を受けてああいう台詞回しをしたのかも知れませんが。
ちなみに『ジョジョの奇妙な冒険』がどれくらい説明的口調で喋るかと言うと、「冗太郎(主人公の名前)が落ちたわ!でも木がクッションになって助かったわ!」というような感じです。
仮にも漫画で、絵が付いているとは思えない台詞回しですが、一目瞭然なことまでいちいち説明してくれるので、非常にドラマCD向きな作品だと言えますね。
実際ドラマCDが出ているかどうかは知りませんが、少なくともアニメにはなってました。
敢えて明確に書かずに余韻を残すと言う発想の対極にあり、「そんなことはわざわざ口に出さずに、心の中で思うだけにしておけよ」と言いたくなるような心情の説明なども事細かにしてくれるのでわかりやすいと言えばわかりやすいのですが、どうしてもくどくなるので、かなり好き嫌いが分かれる作品だと思います。
絵自体もかなり癖がありますし。
癖が強い分、ハマる人は凄くハマるのでしょうけどね。
気が付いたら随分話が脱線していますが、この路線を極めて行けばこの作家さんは小説界の荒木飛呂彦さんになれるのかも知れません。