『喰霊―零―』
Wikipediaさんによると、瀬川はじめさん原作の『喰霊』という漫画の前日譚に当たる物語を描いているそうですが、本編を読んだことがなくても十分楽しめましたね。
土宮神楽ちゃんという退魔師の家に生まれた女の子と諫山黄泉ちゃんという女の子が、神楽ちゃんがお母さんを亡くしたことをきっかけに出会い、実の姉妹のように仲良くなるものの、ある事件によって敵同士になってしまう……という物語で、見ていてとても悲しい気持ちにはなりましたが。
キャッチコピーが「愛のために、愛する者を殺せるか」だそうで、戦いの中で退魔師として人々を守るという使命を果たせる強さを身に付けていく中、弱さにつけ込まれて悪霊になってしまった大切な人を殺さなくてはいけないという事実に対して、自分の落とし所をどう持っていくのかというのは、なかなか見応えがありました。
「全て忘れるか、全て背負うかしかない」という退魔師のお父さんの言葉が重かったです。
結局彼女がどちらを選んだのかははっきりとは描かれていないのですが、個人的には背負うことにしたのかなと、何となくそう思いますね。
どちらにしても悲しいですし、辛い選択ですが。
神楽ちゃんはとても心の優しい女の子で、初めは怨霊に取り憑かれてしまった人を殺すことができなかったくらいなのに、黄泉ちゃんを手に掛けた後には迫り来る怨霊達を泣きながら掃討していて、「強くなったなあ」と感心する一方、とても悲しくなりました。
主人公の成長をこんなに喜べなかったのは初めてです。
同僚の男性の台詞に「一番大切な者を斬った神楽に、この先斬れないものはない」というのがあって、実際その通りなのでしょうが、最強の退魔師になって人々を守ることと引き換えに、一番大切な人を殺さなければならないなんて、まだ中学生の女の子にはあまりにも酷過ぎると思わずにはいられませんでした。
おかげで周りの大人がとんでもない冷血漢だらけな気もしてきましたが、彼女は代々最強の霊獣を受け継ぐ家系の生まれなので、なかなか「戦わなくていいよ」なんていう訳にも行かないのでしょうね。
どうやら『喰霊』本編ではいろいろあった末に、また黄泉ちゃんと一緒にいられることになったようなので、そこだけが救いです。
悪霊になってしまった黄泉ちゃんが最後まで大切に思っていたのが神楽ちゃんで、正気を取り戻した時に殺生石という石に「神楽を守って欲しい。神楽を傷付けるものは全て滅ぼして。それが例え私からであっても」と願っていたくらいですし。
見ていると辛くなったりもしましたが、愛に溢れた良作でした。
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