『猫を抱いて象と泳ぐ』
タイトルは小川洋子さんのチェスを題材にした小説の題名です。
私はチェスが全くわからない人なので、「駒をどこどこに移動した」みたいなことを書かれても全然ピンと来なかったのですが、具体的な手は大して書かれていなかったので、読み難いということはなかったですね。
それどころか、チェス盤の中に広がる世界の広さと深さには感動すら覚えました。
詩を紡ぐようにチェスを指す少年が主人公なのですが、そのあまりに美しい指し手は最早泣けるレベルです。
チェスをするには当然相手が必要ですが、相手が美しいチェスを指すプレイヤーの時には本当に素晴らしいとしか言いようのない戦いぶりでしたね。
私の中で小川さんと言えば『博士の愛した数式』なのですが、その奥底にある物はこの作品に通底していると思います。
一つの世界の奥深さや美しさ、ただただ好きなことに打ち込む気高い人間を書かせたら、小川さんの右に出る人はいない気がしますね。
個人的には『博士の愛した数式』の方が好みですが。
『博士の愛した数式』の題材は数学だったのですが、数学嫌いの私を魅了してしまう程数学の魅力に溢れた作品でした。
以前 アミール・D. アクゼルさんの『天才数学者たちが挑んだ最大の難問―フェルマーの最終定理が解けるまで』という本を読んだ時にも数学者達が連綿と培ってきた知識や途方もない努力の凄さ、そこまで人を惹き付けて止まない奥深さに感銘を受けたものですが、『博士の愛した数式』はあの時に勝るとも劣らない感情を私の中に呼び起こしてくれました。
もう何年も前に書いた、病める学者の物語をリサイクルしたいなあと久々に思いましたね。
『博士の愛した数式』が出版されるよりも前に書いていた作品なので、今読み直すといろいろ酷いでしょうが、真理を求め、それ故に苦悩していたりする学者って萌えます。
別に苦悩していなくても、学者ってストイックなイメージがあって好きですね。
なので、『猫を抱いて象と泳ぐ』より 『博士の愛した数式』の方が好きな理由の一つは、後者に老数学者が出ているからだったりするのでした(笑)。